認知症ってどんな病気?

 「認知症」とは記憶力や判断力が低下した状態を指す言葉であり、厳密には病名ではありません。かつては「痴呆」と呼ばれていましたが、侮蔑感を感じさせる表現であるとされ、現在では「認知症」と呼ばれています。
 
 人の脳は加齢とともにその機能が低下し、記憶力や理解力・判断力が低下していきます。
 このような自然の老化現象と認知症の違いは何でしょうか?
 認知症の定義は、「一度獲得した認知機能が後天的な脳の障害により持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障を来す状態で、意識障害のないもの」です。
 つまり、単に物忘れや集中力が落ちたというだけではなく、例えば毎年行っていた確定申告が出来なくなった、長年散歩していた道に迷うようになった、などの日常生活に支障が出ている状態を認知症と定義しています。
 
 記憶は①記銘(新しい物事を覚える)②保持(記憶を脳に定着させる)③再生(思い出す)④再認(思い出したことが正しいか確認する)の4段階に分けられます。
 老化による物忘れの主体は③再生の障害です。記銘、保持はしていますのでヒントがあれば思い出せますし、「昨日友人と約束したけどなんだっけ…」など物忘れは断片的ですので自覚でき、対処できます。
 それに対して認知症の物忘れは①記銘です。脳に記憶がないため思い出すこともできませんし、「約束したこと自体を覚えていない」ため物忘れを自覚できません。昨日今日のことは良く忘れますが、認知症となる前に保持したことは思い出せますので、結婚記念日など昔のことは思い出せます。

認知症の物忘れの例画像

軽度認知障害(MCI)

 認知症の多くは、数年かけてゆっくりと進行していきます。この途中の、自然な老化による物忘れと認知症の間の状態を「軽度認知障害(MCI)」と呼びます。

 軽度認知障害のスクリーニング検査には、日本語版MoCA(Japanese version of Montreal Cognitive Assessment)が用いられます。MoCA-Jは、視空間・遂行機能、命名、記憶、注意力、復唱、語想起、抽象概念、遅延再生、見当識を評価します。30点満点中25点以下では軽度認知障害が疑われます。
 平成25年に公表された厚生労働省の調査では、我が国の65歳以上の高齢者のうち、14%、462万人に認知症が、軽度認知障害の方が400万人で65歳以上の4人に1人が認知症もしくはその予備軍であると推計されています。

認知症の原因にはどんな病気があるの?

認知症および認知症様症状をきたす疾患は数多くあり、最も頻度の高い疾患がアルツハイマー型認知症です。その他にもレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症などがあります。

アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症は、脳の細胞がゆっくりと減っていくため、症状もゆっくりと進みます。

アルツハイマー型認知症

 アルツハイマー型認知症は、症状が見られるようになる20年前から脳の中にアミロイドβタンパクとリン酸化タウ蛋白という老廃物がたまり、神経細胞が障害されて脳が萎縮していく病気です。

 早期から記憶を司る海馬が萎縮するため、新しい出来事を覚えておくことが困難となるような記憶障害が見られます。

 覚えていない出来事を聞かれると『そんなことは覚えておかなくてもいい』、『覚えてたけど忙しかったから忘れた』などと取り繕うことが多くなります。この他の症状として、ここはどこで、今がいつなのかわからなくなる(見当識障害)、献立をたてて買い物に行き、料理をつくることができなくなるなどの(実行機能障害)などがあります。これらの症状は、数年間かけてゆっくりと進行します。

 また、出来ないことが増えることに怒りや不安を感じることで、身近な人に物を盗まれたという(ものとられ妄想)、ささいなことで大声を出して怒る(暴言)、一人でウロウロと歩き回る(徘徊)などの行動・心理症状といわれる症状も見られることがあります。

アルツハイマーの症状イラスト画像
アルツハイマーの症状イラスト画像

レビー小体型認知症

 レビー小体とは、異常なタンパク質が脳細胞に溜まったものです。レビー小体型認知症ではこのレビー小体が大脳の神経細胞にたくさん出現する病気です。


 症状として注意や覚醒レベルの変動を伴う認知機能障害、パーキンソニズム、繰り返し出現する具体的な幻視、妄想、レム睡眠行動異常、抑うつ症状、抗精神病薬に対して過剰反応をする薬剤過敏性、便秘・排尿障害・起立性低血圧等の自律神経症状などが見られます。

  • 注意や覚醒レベルの変動を伴う認知機能障害

 しっかりしているときと居眠りをするときの差がはげしい。

  • パーキンソン症状

 動きがにぶくなる、手がふるえる、こけやすくなる

  • 幻視

 人や動物が目の前にいるように見える。
 例えば、『数人の男の人が居間に寝ている。呼びかけても何にも言わない』など  

  • 妄想

嫉妬妄想(旦那が幻視の女性と浮気をしている)他に『自分の家が別にもう一軒ある、家族が偽物にすり替わっている』など。

  • 抑うつ症状

 病気の早い時期はうつ病と診断されることがあります。

  • レム睡眠行動障害

 夜中に悪い夢をみて、大声で怒鳴ったり、布団の中で暴れたりします。

  • 薬剤に対する過敏性

 抗精神病薬に反応して全く動けなくなることがあります。

前頭側頭葉変性症

 前頭葉と側頭葉が萎縮する認知症です。症状の特徴から①前頭側頭型認知症②進行性非流暢性失語③意味性認知症に分類されます。

 ①前頭側頭型認知症では、自分の思ったままに行動する(脱抑制)、身だしなみや他者に対しての関心がなくなる(無関心)、他人の行為を真似したり、視覚に入った文字を読み上げたりする(被影響性の亢進)、毎日決まった時間に同じ行動を繰り返す(常同行動)、食べ物の好みが変わったり、異常なくらい食欲がましたりする(食行動異常)などが見られます。

②進行性非流暢性失語症では、言葉の理解は可能ですが、言葉がスムーズにでない、リズムが悪くなる、言葉数が少なくなることを特徴とします。『昨日の夜は食事をとりましたか?』という質問に『昨日、ご飯、食べた』というようにたどたどしい答え方をします。

③意味性認知症では、物の名前や単語の理解が出来なくなることを特徴とします。名前は理解できませんが、物の使用は可能です。言葉の意味が分からなくなるため、『利き手はどちらですか』という質問に『利き手ってなんですか』と答えたり、富士山や三日月という漢字を『とみしやま』や『さんにちつき』と呼んだりします。呼称や単語の意味理解の障害を特徴とします。

血管性認知症

 脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によっておこる認知症です。頭部CTやMRIで、大きな梗塞があったり、小梗塞がたくさんあったり、大脳白質(脳の深い部分)に広範に血流が悪い変化があったり、前頭葉、側頭葉、視床、海馬など認知機能に重要な役割を持つところに梗塞があったりします。

『まだら認知症』といわれるものが含まれます。これは、記憶力は低下しているのに理解力や判断力はしっかりしている状態です。言われたことはすぐに忘れますが、新聞やテレビのニュースはしっかり理解しています。活気がなく、会話が少なくなったり、少しの刺激でも怒ったり。認知症状だけでなく飲み込みや歩きが悪くなるなどの運動症状を伴うことも特徴です。
 アルツハイマー型認知症と違って、急激に記憶力の低下が見られるようになったり、階段を下りるように悪化したり、変動が見られたりします。

脳血管障害の危険因子である高血圧、糖尿病、心疾患などを適切にコントロールするとともに、脳梗塞の再発予防のための薬剤が使われます。

リハビリテーションやレクリエーションなどの非薬物療法が認知症の症状や生活の質の改善に有効なことがあります。

認知症の症状脳のイラスト画像

治療可能な認知症

 認知症との鑑別が困難な軽度の意識障害の患者では、適切な治療により改善することがあります。このような治療可能な認知症(treatable dementia)は、認知症診断の初期段階で見逃してはならない病気です。
 原因としては、感染性や免疫性の髄膜脳炎、甲状腺機能異常、ビタミン欠乏・肝性脳症などの代謝性疾患、正常圧水頭症などの脳外科疾患、てんかん等があります。症状のみでは診断が難しいこともあり、血液・脳脊髄液検査、画像検査、脳波などが必要となります。

神経感染症 脳炎,進行麻痺,HIV感染症,プリオン病
脳腫瘍 原発性・転移性脳腫瘍
外傷 慢性硬膜下血腫
髄液循環障害 正常圧水頭症
内分泌障害 甲状腺機能低下症,反復性低血糖
中毒・栄養障害 慢性アルコール中毒(ウェルニッケ・コルサコフ症候群),ビタミンB12欠乏,葉酸欠乏

認知症の検査ってどんなものがあるの?

 認知症の診断は、症状についての問診、質問による検査、医師による診察、血液検査の結果から総合的に行われ、必要に応じて画像検査、脳脊髄液検査が追加されます。
 質問によるスクリーニング検査には、改訂版長谷川式簡易認知評価スケール※1、Mini-Mental State Examination※2などが用いられます。また、手段的日常生活活動(IADL)尺度によって電話、買い物、家事、外出、服薬の管理、金銭の管理などの日常生活活動の障害についても評価します。

※1 改訂版長谷川式簡易認知評価スケール:質問式の認知機能検査であり、日時の見当識、場所の見当識、単語の記銘、計算、数字の逆唱、遅延再生、物品再生、言語の流暢性の設問から構成されています。5分程度で実施可能であり、30点満点中20点以下を認知症の疑いとします。

※2 Mini-Mental State Examination:質問式の認知機能検査であり、日時の見当識、場所の見当識、単語の記銘、注意・計算、遅延再生、物品の呼称、復唱、口頭命令動作、図形描写の設問から構成されています。5分程度で実施可能であり、30点満点中23点以下を認知症の疑いとします。 さらに、今後は発症を少しでも遅らせるためにより早い段階の軽度認知障害を診断することも大切になってきます。

時計の文字盤と指定された時刻の長針と短針を書き加えるという、時計描画テストもあります。

時計描画テストのイラスト画像
画像検査
  • 頭部CT、頭部MRI:脳の萎縮や脳血管障害を評価するだけでなく、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍、脳炎等の診断に有用です。アルツハイマー型認知症では海馬が萎縮し、前頭側頭型認知症では前頭葉と側頭葉が萎縮しますが、レビー小体型認知症では脳萎縮は軽度です。頭部MRIでは、認知機能が正常な同じ年齢の人と比べてどの程度萎縮しているかを評価するためVSRAD(Voxel-based Specific Regional analysis system for Alzheimer’s Disease)という解析ソフトが用いられることがあります。
     
  • 脳血流シンチグラフィー:脳血流が低下している部位を検出する検査です。アルツハイマー型認知症では側頭葉・頭頂葉・後部帯状回、前頭側頭型認知症では前頭葉・側頭葉、レビー小体型認知症では後頭葉の血流が低下するため診断に有用です。また、脳血流シンチグラフィーでは、脳血流が低下してる部位を評価するためのeasy Z-score imaging system(eZIS)、 three-dimensional stereotactic surface projection(3D-SSP)という解析ソフトも用いられることがあります。

    その他、レビー小体型認知症に有用な検査としてMIBG心筋シンチグラフィーやドーパミントランスポーターシンチグラフィーがあります。

最新のアルツハイマー型認知症の検査

 保険適応ではありませんが、将来的には脳内のアミロイドを評価することができるアミロイドPET(Positron Emission Tomography)や、脳の機能を評価することができるFDG-PET検査などもアルツハイマー型認知症の診断に用いられる可能性があります。

認知症の治療ってどんなものがあるの?

認知症の治療は、薬による治療と日常生活でのケアの2つの柱があります。

認知機能障害(中核症状)の薬物療法

1.認知症治療薬
 認知症の治療として、対症療法、根本療法とともに糖尿病や高血圧症など認知症発症の危険因子となる生活習慣病などの管理が行われます。 認知症の人の症状、併発疾患、各薬剤の特徴や介護環境・介護者の生活などに適した薬剤を選択します。

 認知症の中でも最も頻度の高いアルツハイマー型認知症の治療薬には、「脳の神経細胞を活発にする薬(コリンエステラーゼ阻害薬)」であるドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンと「脳の神経細胞を保護する薬(グルタミン酸受容体(NMDA)阻害薬)」があります。

 
 

脳の神経細胞を活発にする薬(コリンエステラーゼ阻害薬)

脳の神経細胞を保護する薬(グルタミン酸受容体阻害薬)

一般名(商品名) ドネペジル(アリセプト(R)) ガランタミン(レミニール(R)) リバスチグミン(イクセロンパッチ(R)/リバスタッチパッチ(R)) メマンチン(メマリー(R))
作用機序 アセチルコリン分解酵素阻害 アセチルコリン分解酵素阻害/ニコチン受容体の直接刺激 アセチルコリンおよびブチリルコリン分解酵素阻害 グルタミン酸受容体(NMDA)阻害
剤形 錠、口腔内崩壊錠、細粒、ドライシロップ、ゼリー 錠、口腔内崩壊錠、内服液 貼付剤 錠、口腔内崩壊錠、細粒
投与回数 1日1回 1日2回 1日1回 1日1回
代謝 エステラーゼにより分解(肝代謝)腎排泄 腎排泄

 

 

  脳の神経細胞を活発にする薬               脳の神経細胞を保護する薬 

  • 脳の神経細胞を活発にする薬(コリンエステラーゼ阻害薬)

 アセチルコリンという記憶に重要な働きをする神経伝達物質の働きを補強することで、認知機能障害の進行を抑制します。アルツハイマー病の進行を3年以上遅らせることができると報告されています。より早期に治療を始めれば、進行を遅らせる効果が強いとされています。意欲を向上させたり、やる気を起こさせたりする効果があります。

ドネペジル(アリセプト)

 国内で開発された世界初の認知症治療薬です。抑うつ、不安、無感情に効果があります。1日1回内服します。軽度から高度(着衣、入浴、排泄に介助が必要)まで全過程で使用可能で(図3)、記憶を司る海馬の委縮を24%抑えたという国内の報告があります。レビー小体型認知症にも、保険適応があります。

ガランタミン(レミニール)

 ニコチン性アセチルコリン受容体の感受性を高めることで、1年間にわたって認知機能を維持する効果が示されています。1日2回内服です。興奮、不安、脱抑制、異常行動に対して有意な効果があり、夜間睡眠を悪化させないとされ、海外で脳血管障害を伴うアルツハイマー病への効果が報告されています。

リバスチグミン(イクセロンパッチ/リバスタッチパッチ)

 中枢のアセチルコリンに加え、末梢のブチリルコリンの分解酵素を阻害します。1日1枚上半身に貼付します。 日常生活動作(ADL)の改善や介護負担の軽減が報告されています。 また家族が貼付することで、タックテーィルケア(身体を柔らかく包み込むように触れることで、安心感が生まれ、不安な感情を取り除くケアの方法)が期待できます。 皮膚が乾燥していると副作用として、掻痒感が生じることがあります。食欲を増進させる効果が注目されています。

 

  • 脳の神経細胞を保護する薬(グルタミン酸受容体(NMDA)阻害)

メマンチン(メマリー)

 アルツハイマー病の脳に過剰となっているグルタミン酸の刺激を抑え、神経細胞を保護する働きや神経のノイズを防いで、記憶・学習機能の障害を抑制する効果があります。中核症状である実行機能障害、注意障害、言語障害や食行動の異常に対する改善効果が報告されています。またイライラ(易怒性)、興奮、攻撃性を抑える気持ちが穏やかになる効果があり、抗精神病薬の減量が可能となることが報告されています。施設入所時期を遅らせることができ、さらに最終的に医療費や介護費用を減らすことができるという経済的な効果が報告されています。
 メマンチンは他の3剤と作用機序が異なるため、コリンエステラーゼ阻害薬との併用により、海馬のアセチルコリン濃度を相乗的に増加させ、興奮・攻撃性、易刺激性、不安定性、夜間の行動異常に効果が高まったと報告されています。

 

2.認知症治療薬の効果判定

 現在使用されている治療薬は、進行を止める薬ではなく抑える薬です。患者家族は医師から認知症と診断されて以来、できなくなったことばかりが目につき、治療によっても変化がないこと自体を負担に感じることも多いです。

そのため、発想を転換し、認知症の人が今できていることをできるだけ維持して家族との生活を支えるための『できることシート』を作成しました。

 できることシート

□ 1 趣味や自分が好きなことをやるようになってきた
□  2 あいさつをするようになってきた
□  3 自ら話すことが増えてきた
□  4 料理や食事の支度をするようになってきた
□  5 笑顔が増えてきた(表情が明るくになってきた)
□  6 外出するようになってきた(自分から散歩や買い物に行くようになった)
□  7 置き忘れやしまい忘れが減ってきた
□  8 思い出すまでの時間が短くなった
□  9 同じことを聞き返す回数が減ってきた
□ 10 買い物に行っても帰れるようになってきた
□ 11 時間や日付の間違いが減ってきた
□ 12 夜、眠れるときが増えた(幻覚出現頻度の減少による昼夜逆転の解消)
□ 13 会話がかみ合うことが多くなってきた
□ 14 人の話を聞くようになってきた
□ 15 簡単な食事の準備ができるようになってきた
□ 16 家族を他人と間違えることが減ってきた
□ 17 トイレや部屋の電気を消すことが増えてきた
□ 18 ゴミ出しの日を間違えることが減ってきた
□ 19 落ち着いて生活する時間が増えてきた
□ 20 人との約束を忘れることが減ってきた

 

BPSD(認知症の行動・心理症状)の薬物療法

 認知症はさまざまな精神的な症状、行動の症状をおこします。それをBPSDと呼びます。軽症から中等症に進行するに従い頻繁に出現するようになり、本人はもちろん、介護する人にも負担がかかります。BPSDの症状が強く、介護などほかの方法ではなかなか抑えられない場合、症状に応じて薬を使うこともあります。

※BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略 

アルツハイマーの症状について画像
抗精神病薬

“幻覚”“妄想”“興奮”“不安感、焦燥感”などの症状が強い時に使います。転倒や飲み込みが悪くなることでの誤嚥性肺炎などに注意が必要で、そのため少量から慎重に使われます。

抗うつ薬

気分の落ち込み、不安感、焦燥感などのうつ症状が強い時に使われます。前頭側頭型認知症のBPSDを軽減する効果もあります。

漢方薬

“妄想”“興奮”“不眠”などに用いられます。「抑肝散」という漢方薬がよく使われます。

気分安定薬

躁うつ病の治療薬ですが、認知症の興奮や気分変動にも用いられます。

睡眠薬

睡眠確保は重要ですが、せん妄(意識障害)や転倒に注意が必要です。

薬を使わない療法

認知症の人が穏やかに自分らしく過ごせるために、薬を使わない療法がいろいろあります。そのうち、4つを紹介します。

リアリティ・オリエンテーション(RO)
  • リアリティ・オリエンテーションは、現実の時間、場所、人を適切に認識することを助けます。

具体的には、日めくりや時計をそばに置く、普段の会話の中で「今日は、3月3日。お雛様やね」「この人はヘルパーの○○さん」と、時間、場所、人を伝えるなどです。

回想法

 認知症があっても昔の記憶は残っています。子どもの頃、大分川で鮎釣りに興じた話、戦後復興で橋や道路をつくった苦労話など、昔語りに耳を傾けていると、認知症の人の表情が輝いてきます。

 お手玉、洗濯板、昔の教科書などを使い、過去の体験を思い出し、語れるよう支援します。

音楽療法

 音楽療法は、個人や集団に対して、歌唱、楽器演奏、曲に合わせた体操などを組み合わせて行います。

 自然に笑顔がこぼれ、歌声が次第に大きくなり、ハツラツさを取り戻すことができます。音楽は、脳を刺激し、こころとからだを動かしてくれます。

タクティールケア

 タクティールとは、ラテン語で「触れる」という意味です。

 背中、手、足などを包み込むようにゆっくりと触れることで、緊張や苦痛を和らげ、穏やかさと安心をもたらす、スウェーデン生まれのケアです。