安心できるように介護をすること
認知症の人は、不安や緊張がとても強く、焦りやいらだち、疲れやすさ、孤独感を感じています。本人にしかわからないこころの様子を察し、安心できるよう介護することが大切です。一方、その方が人生を重ねる中でつちかってきた知恵、からだで覚えた記憶、大切な人への思い、誇りは失われていません。認知症があっても適切な環境や介護により、自分らしく生活することはできます。
介護のポイント
安心できる環境づくりとかかわり
- 強い音や光、人ごみ、人の動きが速い場所は苦手ですが、見慣れた場所・風景、使い慣れた道具、馴染みの人は安心につながります。
- 部屋の模様替え、引っ越し、介護者の交代など環境の変化は混乱をまねきやすいので慎重に。
- 間違いや失敗があっても「ダメでしょ」「どうしてわからないの」と否定したり、責めたりせず、一呼吸おいてかかわりましょう。
- 認知症の人が話すスピード、歩くスピードにあわせ、笑顔でゆっくり、ゆったりと。
できることへの手助け
- 認知症になっても、ご自分でできることはたくさんあります。本人のペースで行えるよう見守り、待つことが大切です。
- 家事、仕事や趣味など、長年行ってきたこと、得意なことは、自然に楽しく行えます。そのような機会をつくりましょう。
体調の変化を敏感にキャッチ
- 発熱や痛みなど体調が影響し、認知症の症状が強く現れることがあります。便秘や膀胱炎、疲れや睡眠不足などの些細な体調の変化も見過ごさないことが大切です。
- 体調の変化は、放っておかずに主治医などに相談しましょう。
ひろげよう介護の輪
- 一人で抱え込まないことが大切です。
- 認知症介護の専門家は、地域包括支援センターや施設・病院など身近な所にいます。
- 家族の会や認知症サポーターもよき理解者・応援者です。
相談先はこちらから探せます
BPSDへの対応
認知症の人にとっての理由を知る
認知症の人に時として、「そわそわして落ち着かない」「イライラして怒っている」「気分が落ち込む」「徘徊する」などの症状が現れます。これは、BPSD(認知症の行動・心理症状)というものです。 *BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略
- 周りからみると徘徊でも、ご本人にとっては「戻る場所がわからない」「仕事に行く」などの理由があります。
- 無理に制止せず、しばらく一緒に歩きながら本人の言動に耳を傾けることで、理由がわかることがあります。
BPSDがおきるきっかけをさぐる
- BPSDは、からだ、薬、環境の変化がきっかけでおこることがあります。きっかけとなる状況を取り除くことで、症状を防ぎ、和らげることができます。
BPSDのきっかけ
からだ | 発熱、便秘、脱水、足腰や虫歯の痛み、持病の悪化など |
---|---|
くすり | 薬の変更、薬の副作用など |
環境 | 騒がしい環境、引っ越し、入院・入所など、介護者の交代など |
介護Q&A
Q:探し物ばかりしているのですが、どうしたらよいですか?
A:一緒に探して不安を軽減しましょう
「どこにしまったのか」、「どこに置いたのか」を忘れてしまうことから探し物が増えます。あるはずのものが見あたらないと、焦ったり、イライラしたりする体験は誰にでもあります。認知症の人も同じように、探し物が見あたらず困っています。
いつも探し物をしている姿をみると家族としては、つい「何処にしまったの?」と嫌な顔をしたり、時には怒りたくなるかもしれません。ですが、探し物をしている本人の不安や焦りを和らげることが大切ですので、「一緒に探しましょう」という姿勢で対応しましょう。
もしかしたら、探している途中で何を探していたか忘れることもあるかもしれません。「お茶でも飲んで、また後で探しましょう」と別のことに関心を向けると落ち着くこともあります。探し物が眼鏡やリモコンなど普段よく使うものでしたら、本人と置き場所を決めておくのも良いと思います。
Q:同じことを何度も聞かれます。どうしたらよいですか。
A:話を聴いて安心してもらいましょう
認知症の人は、自分のなかで「何かおかしい。これまでとちがう」と感じており、不安を抱えています。自分の記憶や認識の内容があやふやになり、確信がもてない不安から同じことを何度も聞くという行動をとっていることもあります。
家族からすると「また同じ事を言っている」と思われるかもしれませんが、繰り返し聞いてくる内容は、本人にとって気がかりなことや大事なことだったりします。難しいかもしれませんが、本人の気持ちにあわせて、同じ事を言われても初めて聞いたかのように聴いてあげると安心すると思います。
さりげなく話題を変えたり、お茶に誘ったりするなどして、別のことに気持ちを向けてもらう方法も有効ですのでやってみてください。
Q:何か言うとすぐ怒ります。どうしたらよいですか。
A:気持ちに寄り添い、見守りましょう
認知症の人は、「何かおかしい。これまでと違う」、「何だかわからないが、これまでのように上手くいかなくなった」という自分の変化になんとなく気づいています。記憶の曖昧さや失敗することへの不安があり、思うようにできなくなったことに対する腹立たしさや、それを認めたくない気持ちもあると思います。このような状況で「何でできないの?」、「ぼんやりしているんじゃないの?」といった周囲からの指摘や叱責は、本人を傷つけることになり、怒りの気持ちに転じてしまいます。
できていることに対して「ありがとう」「助かるよ」などと声を掛けるだけでも、できている自分を感じることができると思います。また、以前はできていたことに対して上手くいかない部分を指摘したくなる時もあるかと思いますが、自分でできたと感じられるように、気持ちに寄り添いながら、行動を見守るようにしてみてください。
Q:間違いや失敗があっても否定したり、責めたりしてはいけないとわかっているのですが、ついきつい口調で叱ってしまい、あとで自己嫌悪に陥ります。
A:1人で抱え込まずに周囲に頼れる人をつくりましょう。
誰でも優しい気持ちで接したいと思っているはずです。それができないのは決して自分が悪いからではありません。我慢することでストレスが溜まり、日々の介護に余裕がなくなるからです。
介護に悩みはつきものです。気軽に相談したり、愚痴を聞いてくれる人がいると気持ちが楽になります。1人で抱え込まず、早めに相談しましょう。
最初の相談窓口としては、地域包括支援センターがおすすめです。相談内容に応じて医療や介護など必要な支援に繋げてくれます。県外にお住いの方で家族のことを相談したいけれども帰省できない場合も、最寄りの地域包括支援センターに電話で相談できます。
「認知症の人と家族の会」や「オレンジカフェ」には、同じように認知症の人の介護を経験している仲間がたくさんいます。介護のアイデアを教えてもらったり、話を聴いてもらうことで一歩前にすすむきっかけになるはずです。
インタビュー紹介
認知症の方のご家族:中津市 三原 直子 さん
閉じこもらないで、一人で抱えないで、話を聞いてもらうだけでほっとするんですよ
認知症の方のご家族:宇佐市 足立 由美子 さん(認知症の人と家族の会大分県支部 世話人)
『認知症の人と家族の会』との出会いによって、前に進んでいこうという気持ちになれました
認知症の人と家族の会の紹介ページ