笑顔ですごす、笑顔を増やす毎日を送る

2020年10月1日、認知症ご本人丹野智文氏を大分市にお招きし、講演会を行っていただきました。認知症のタイトルは「認知症とともに生きる」。39歳という異例の若さで若年性認知症と診断された丹野氏のお話をご紹介します。前半の内容は写真と要旨、後半の質疑応答は動画でご覧ください。

「認知症とともに生きる」前半

大分県福祉保健部高齢者福祉課長黒田よりご挨拶
丹野氏の登壇と会場の様子

講演会の前半は、丹野氏が認知症と診断される前の気づき「おかしいな」から始まりました。
以下、丹野氏の講演の要旨を掲載いたします。

ネッツトヨタ仙台で営業をしていましたが、自分のお客さんのことが分からなかったり、言い訳したり、時には嘘をついたりしました。
病院に行き、付いた診断は「アルツハイマー型認知症」でした。アルツハイマー、イコール、終わりだと感じました。診断後は、不安で眠れませんでした。携帯のインターネットでも悪い情報ばかり目につき絶望を感じました。
そんな中、認知症の人と家族の会があることを知り、若年の集いがあると聞き、参加してみました。みんな同じ病気、飲んでいる薬も同じ、優しく話を聞いてくれ嬉しくなりました。

私は、アルツハイマーにはなったけれど、家族と共に過ごす時間が増え、たくさんの優しさに触れ合えたこと、認知症、イコール、終わりでもないことに気づきました。認知症を悔やむのではなく、認知症と共に生きるという道を知りました。

認知症になっても周りの環境さえよければ楽しく笑顔で過ごせることを知りました。
環境が一番大切だと思います、人と人のつながりが私を笑顔にさせてくれます。

1回ではできなくても次にはできるかも、と思ってほしいです。良かれと思って周囲の人がすべてをやってしまうと当事者は自信を失ってしまい、本当にすべてができなくなってしまいます。
失敗しながらも自信を持って行動する、失敗しても怒らない環境が認知症当事者には必要です。

サポートしてもらいながらでも、できることは自分でする、自分の意見を言って自分で決めること、できないことは人に頼めること、守られるのではなく目的を達成するために皆さんの力を借りて課題を達成すること、これが自立だと思います。

認知症は重度になる前には初期があり、診断直後があるのです。診断直後から継続的に家族へのサポートが大事だと思っています。家族へのサポートとは、本人の困りごとを解決するためのサポートです。

認知症と診断されることを恐れて病院へ行きたがらない人もたくさんいます。でも、楽しい人生を再構築するためには早期診断が必要です。
人生は認知症になっても新しく作ることができるのです。
認知症は決して恥ずかしい病気ではありません。誰もがなる病気です。
みんなで支え合う社会を作りましょう。

丹野智文氏
原稿を手に話し始める丹野氏
会場遠景
静かに聞き入る来場者

丹野氏のいきいきとした話しぶり、活気のある目に引き込まれた45分間でした。

「認知症とともに生きる」後半

対話形式の質疑応答は引き続き丹野氏のペースで始まり、じわじわと質問の声が上がってくると、笑顔で朗らかに、時に厳しく身の引き締まるような助言をくださる氏の言葉に、会場では深く頷く方、考えを巡らせる方など様々な反応が見られました。

丹野智文氏
笑顔で答える丹野氏
質問者
お礼と質問を投げかける質問者

丹野智文氏講演会「認知症とともに生きる」質疑応答

イントロダクション

 当事者が当事者の相談に答える もの忘れ総合相談窓口「おれんじドア」を6年ほど前から開設し、これまでに100人くらいの当事者が「おれんじドア」に来ています。また、昨年度から病院に出向いて診察後や診察前にお話をする機会を持っています。
 当事者の方々の企画で「運転免許を考える会」「認知症の勉強会」「新型コロナウイルスの勉強会」なども行っています。
 会場には当事者の方お一人で来られます。皆さん道に迷います、時間に遅れます。でも、このことを皆で楽しく共有し『次はどうやったら良いか』に備えています。

質問1 08:27 「本人がやりたいことをやってもらうだけ」

 「ご本人には話したいことを話してもらうだけ、やりたいことをやってもらうだけ」で、一方的に質問するようなことはしません。
 認知症の症状である『忘れる』ことは確実に起こっているけれども、症状があってもより良く生きることはできる、とその工夫についてお話しします。

質問2 15:25 「道に迷うことも、財布を忘れることも工夫しだい」

 道に迷うから外出させない、財布をなくすかもしれないのでお金は持たせない、というように家族は心配だと思います。無くすのであれば赤・青・黄色のヒモに鍵や財布を付けるなど工夫し、禁止・管理で行動を奪うことはしないで欲しいです。

質問3 24:09 「当事者の方達のサインを見逃さないようにするには?」

 ぜひ、自分が行きたいと思うオレンジカフェを作って欲しいですね。当事者と一緒に作り上げたら良いと思います。社会を変えるためのカフェ、なんて気負わずに一人の当事者が笑顔になるためのカフェを作って欲しいです。
 周りが察して当事者のことを決めるのではなく、本人が決めたことを応援したらすごく良いと思います。本人がやることは中途半端にではなく、とことん応援して欲しい。それができたら最高かなと思います。

質問4 35:25 「笑顔で仕事を続けるこつは? 職場の対応が嬉しかったことは?」

 仕事に関して、席を忘れても上司の顔を忘れても、周囲の人に聞いたら教えてくれます。うちの上司は「これできるか?」とよく聞いてくれる、会話をすることが多いです。本人が何ができて何ができないか、何がしたいかをしっかり話すことが大事です。しっかり話すことで自分のできること、できないことを見極めてもらえる。日本の察してあげる文化は、認知症にとってはうまくいかないかなと思っています。

質問5 44:27 「ある認知症の方との出会いについて」

 認知症と診断されて1年位たった頃、富山まで4時間くらいかけて行ったとき、一緒に行った人が「本当に認知症?」という位、元気でやさしくて、でもその人も認知症の診断後は1年半家に閉じこもっていたと聞きました。人の手助けを積極的にやっているその人の姿を見て「俺の方が若いのに何しているんだろう、まだこの人のように自分にも何かできるのではないか」と思いました。そして、その時に10分間話す機会をいただき、泣きながら自分のことを話したことがきっかけで、今があります。
富山に行かなければ今の私はいない、また、10分話さないかと言われたときに話さなければ今の私はない、と思っています。社会を変えようとなどは思っていなくて、目の前の人が笑顔になれば良いと思って活動をしています。

質問6 54:09 「まとめ」

一人の人が笑顔で生きるためにみんなで応援しよう、その人の生活を奪わない、先回りするのではなく応援してくれたら嬉しいです。